レベニューマネジメントとダイナミックプライシングは混同されやすい用語ですので、ここでざっくりと説明します。
レベニューマネジメント 収益を最大化するための総合的な販売戦略
ダイナミックプライシング価格のコントロール
つまり、ダイナミックプライシングは、レベニューマネジメントの一要素ということになります。ただし、多くの場合で、レベニューマネジメントとほぼ同じ意味で利用されています。
近年の宿泊施設のマーケティングでは、レベニューマネジメンという用語を耳にするようになりました。しかしこのレベニューマネジメントを日本語にすると「資産管理」という意味になり、なぜ宿泊施設の予約販売とのつながりがピンときません
マーケティングの用語的には 「在庫に限りがあり、需要が時間によって変動するビジネス(航空業界、宿泊業界など)」で収益を最大化させる戦略」です。
つまり、収益の最大化の手段として「価格や販売チャンネルなどを総合的に考えて販売」します。
レベニューマネジメントとは:直訳では「資産管理」
目的:収益の最大化
手段:販売戦略、施策
もし価格を変動させるという意味に絞るならば「ダイナミックプライシング」を使うことをおすすめします。逆に「収益最大化のための総合的な販売戦略」という意味なら「レベニューマネジメント」を使うと明確になると思います。
1978年、アメリカで航空業界の規制緩和(航空自由化)が実施され、多くの航空会社が自由に価格設定を行えるようになって生まれました。
飛行機の座席(搭乗券)は、その搭乗日までに売れなければ売上がゼロという性質があります。(他の製品や商品は在庫としてその日以外にも売ることができる)。そのような航空業界の事情や条件の中で、航空会社がどのように販売すれば収益を最大化できるかという視点で生み出された考え方、戦略です。
もともと航空会社はリース会社から航空機を購入またはリースして、必要な人材を雇用し、どれだけの利益を回収できるか。という視点でモノを考えています。
海外のホテルの場合、所有者が建物を運営会社にリースする。そして運営会社はその運営によって利益を上げるという形が主流です。つまり、ホテル経営も航空業界に類似するビジネスモデルです。
2つの業界のいう「収益性」は、座席や客室という資産から、どれだけ有効に販売するかに掛かっています。このような事情から「レベニューマネジメント=価格を変動させて収益」という意味として使われるようになったと考えています。
日本の旅館などでは伝統的に、その所有者自体が経営(運営)を行っていることが主流です。しかし、海外では建物の所有者と、経営や運営が分かれていることが多いという歴史的背景の違いがあります。
役割 | 主な内容 | 代表例 |
---|---|---|
所有者(オーナー) | 不動産を保有・投資 | 不動産投資ファンド、個人投資家、企業など |
運営会社(オペレーター) | ホテルの実務運営 | マリオット、ヒルトン、アコー、ハイアットなど |
ブランド(フランチャイザー) | ブランド名と運営ノウハウ提供 | 上記運営会社がブランドも提供するケースが多い |
最近、プリンスホテルが、自社所有の資産を投資ファンドに売却して、運営に特化していくという記事を読みました。つまり海外の経営スタイルに合わせたということになります。
海外では、所有者と運営会社は分かれている事が多く、施設の所有者は経営または運営会社などにリースして「家賃」で収益を上げます。そして経営または運営会社は、その建物(施設)を運営して宿泊客に「短期に又貸し(宿泊)」するような形で利益を上げます。ちなみにこの配分の基準となるのが「GOP」と呼ばれるものです。
一般的な都市型ホテルで行うダイナミックプライシングと、リゾートホテルや旅館のそれでは、手法がかなり異なることを頭に入れて置く必要があります。ここではリゾート型(リゾートホテルや旅館)に絞って説明していきます。
都市型ホテルの価値は、利便性や機能性(設備、客室の広さや駅や目的の場所からの近さなど)でほぼ決定します。
くわしくは「内的/外的要因分析」で説明していますしかしリゾート型の場合、「旅」の性質が異なり、利便性は都市型ホテルほどダイレクトに影響を与えません。そしてユーザーの価値感は多様で、宿ごとのターゲットによって備える設備(機能)も変化します。これらの理由から合理的な比較で選択できず代替性が低くなります。
都市型ホテルの場合、利便性が価格決定の大きな要因となりうるわけですが、賃貸マンションと決定的に違うのは、日毎に利便性が変化するということです。近くでイベントやインシデント(災害や空港閉鎖や新幹線の運休など)があれば急激な需要変動が起きます。これに対応するために、価格に影響を与えるイベントや競合他者の価格をチェックして自社の価格を調整する必要があります。
逆に言えば都市型ホテルの場合エリアの競合ホテルの価格変動に連動させてしまえば、ダイナミック・プライシングは機能してしまうと思います。つまり、価格は単純なロジックで動いているからこそ、ダイナミック・プライシングツールによる自動化が現実的ということです。そういう都市型の急激な価格変動が起きないところでビッグデータを利用するAIを使ってもあまり意味はないと予測できます。
リゾート型の場合、ユーザーが宿を選ぶ際、ゲストの価値感の差が大きく作用します。その価値感も多様で、そのターゲットを見据えて多様な宿泊形態、スタイルが存在します。つまり、合理的な比較が難しいため、価格決定モデルが複雑です。
また、選択した理由が価値感によるものが大きいほど、代替性が低いので「コスパが変動したことで競合に乗り換える」という行動に結びつきにくいということに。
上記の説明を読んでいくと、「リゾート型ではダイナミックプライシングは必要ないのでは」と感じる方も多いと思いますが、実際にはそうではありません。価値感もそうですが、休みの取り方にも変化が起きていて、休暇取得の自由度が高まったことでダイナミックプライシングの有効性は高まっています。
有給休暇などで需要が高い時期や日付を避けることが容易になり、さらに時間的自由度の高い高齢者やインバウンドなどの需要もあります。ニーズに合った露出と価格で平日の稼働率を上げることも容易に。さらに宿やエリアが持つ魅力の創出と組み合わせることで閑散期の需要を掘り起こすことも。
前に説明したとおり、都市型ホテルは機能で比較しやすく代替性が高いので(キャンセル料などがなければ)一瞬でコスパの高いホテルへと流れることになります。つまり、ダイナミックプライシングツールは、この動きを予想するものです。周辺のホテル(特に競合)の価格の相場の変動に応じて、価格を調整するものと考えて良いと思います。さらに近隣のイベントなど外的要因をビッグデータを利用して価格を決定するはずです。(試したことはないが、それ以外の手法はありえない)
つまり、そのような手法の適正価格の予測は、ビジネスホテル、シティホテルのようなものに効果はあるが、リゾートホテルや旅館ではあまり(本音では「全く」)役に立たない代物だと考えています。詳しくは別のページで説明したいと思います。
ダイナミックプライシングは、主に2つのツールが必要です。
料金体系ニーズに合わせて最適な価格を反映しやすいもの
分析ツール最適な価格を判断するためのもの
ニーズに合わせて調整しやすい料金体系というのは、つまり多段階の料金ランクを作ることです。
最安の日程で室料1万円、最高2万円の客室の場合、1000円刻みで上がっていく料金表をつくっていくようなイメージです。
宿の特性を考慮し販売戦略を立てることが先決で、その上でニーズに合わせて価格を変動させていくことは難しいです。
実際に「やったつもり」になっているだけの事例を紹介します。
リゾート系の予約販売では、ダイナミック・プライシングをやったから売上や収益が上がるわけではないと考えています。ある程度の条件が揃った場合に単価や稼働の上昇が起こり得るものと考えています。
口コミというのは、魅力があり、その魅力がユーザーに一定程度理解された時、高まるもので、つまり満足度の指標です。 つまり満足度が高く価値を感じてもらっているのなら、より高く買ってくれる潜在的なユーザーが市場にいるのが予測され、今までより高い価格設定でも十分稼働(販売数)を得ることができます。つまりダイナミック・プライシングはそのニーズの高さを利用して単価アップをする効果があるので(特に繁忙日)単価は上がります。また、稼働がどうしても下がる平日も価格を調整することで、機会損失が減り、収益を改善することが可能です。また、平日の中での分散効果で、全体的な稼働率を上げることが期待されます。
あるコンサルティング会社がある旅館に対して「ダイナミックプライシングができる」と言ったそうです。その旅館のマーケティングの責任者(実はマーケティングは未経験)は、その言葉を信じて契約をしたようです。
それを聞いた私たちは、そのコンサルが、どのような料金設定をして価格コントロールしているのか密かに見ていました(意地悪)結果、変な売り方をしていたせいもあり、結果は出なかったようです。(おそらく外的要因などで打ち消されてしまったんでしょう)
結局、ダイナミックプライシングというのはあくまでも「やってる感」を出すためであって、肝心のOTAでちゃんと露出して、最適なターゲットに向けて最適なプランやサービスを用意して最適な価格で売るということが全くできていなかったということがわかりました。
あるダイナミック・プライシングのサービスの会社の説明を聞いてみたことがあります。それで興味をもってその会社のWEBサイトを確認しそのシステムを採用している地方のホテルにたまたま宿泊したことがありました。(商売柄、泊まるホテルの料金変動の幅や客室の料金差をチェックしてしまうので)よく覚えているのですが、ダイナミック・プライシングをやっているとは思えない、単純な料金表だとわかる料金設定でした。
地方のホテルの場合、何かしら強いイベントが突然決まらない限り、極端に近隣ホテルの価格が上がることはないので、24時間のチェックは無駄と言ってもよいでしょう。
24時間、近隣競合のホテルを自動で監視して、価格の調整(上げ下げ)を提案してくれるようですが、当然のことながら
まとめると、宿泊施設ごとの特性を考慮した上で、ダイナミックプライシングしやすい料金体系を作り、最適な価格を導き出すノウハウが必要ということです。
今まで、私達が見た料金表というのは、シンプルすぎたり、こねくり回して複雑になっているかのどちらかでした。 ダイナミックプライシングでは、状況に合わせて調整する必要がありますので、合理的というか構造的に作る必要があります。
リゾート系の場合、料理の種類ごとにプランが派生していきます。さらに、OTAで販売する際には、OTAごと、時期ごとにセール用に割引のプランが派生し、記念日プランなど付加価値のあるプランを作ってしまうと、さらに派生します。つまり、いくつもの料金表を作る必要があります。
つまり、もし構造的なものでないと料金変更が非常に煩雑な作業になりかねないので、構造的な料金表が求められるのです。
多くのOTAの販売業務を請け負う業者、コンサルは、まともな料金表を作れるとはいえず
感覚でプラン料金などを決めているとプランごとの料金が整合性が無くなり、調整や訂正がしにくい料金表になってしまいます。 もし「なぜか売れない」という現象が出てきた時、理由を気づきにくいですし、すでに述べたように料金変更などに対応しにくいものになってしまいます。
もしメンテナンス性の無い料金表で新しい客室の料金や追加のランクを作ったり、セールプランを作ると多くの場合、整合性のために大変な作業になってしまいます。 思いつきで作った料金表を無理やり作り直すと、そういう複雑怪奇な料金表になるか、凄くシンプルなものに戻すしかなくなるのです。
しかし、メンテナンス性の良い料金表ならば、一瞬で整合性のある新しい料金表を作ることができるのです。
宿泊施設の予約販売において、価格決定のノウハウはキモです。高ければ売れない。安くしすぎれば利益率が下がってしまう。ちょうど良いバランスの価格を見つけることが求められます。
ニーズを分析し、料金を変動させてホテルの収益を最大化させます。エリアのターゲットとなるホテルの価格変動を参考にするだけという受動的なものもあれば、OTA等からのデータを分析して積極的に価格変動させるまで幅が広いようです。また条件によっても価格変動の幅やタイミング等、判断基準は難しく、中途半端にやっても効果は期待できません。
ダイナミックプライシングというのは「売れないときに単純に値下げをすること」と理解される人もいますが、
ある旅館の支配人に質問されで気付いたのですが、あるコンサルティング会社のスタッフが「リストリクション」という手法を勧めてきたそうです。 簡単に言うと「満室になるような日は、室あたり3名以上でないと泊まれないようにする」というものでした。
MTXとしては、このような運用を基本的におすすめしません。この手法は「取らぬ狸の皮算用」となりかねないからです。 せっかく満室になるのだから室単価を上げるために「同伴係数を上げたい」というのはわかりますが、この手法には負の効果があります。これが分かっていればいいのですが、実は、コンサルはこのリストリクションを勧めたのに、それを宿側(支配人)に説明していませんでした。
リストリクションというのは、直訳すると「制限」。予約販売時の制限を意味していて、要するに「室あたり最小予約人数」のことのようです。
例えば、休前日は必ず満室になる場合に「1室3名以上でないと予約不可」とするようです。3名以上で販売するより、2名では「室単価」が低くなるので、収益性を上げるためでしょう。(もし販売が思わしくない場合は、直前で販売を解除)
しかし、このような「予約人数の制限」は実はデメリットがあって全体の単価を押し下げる要因になりえます。そもそも「需要が高いなら」2名の客単価を上げれば解決すればいいはずです。(答えを言ってしまった、、笑)
単価を押し下げる理由はいくつかあり、ちょっと意地悪ですがここでは説明しません。どうしても知りたいという方は、メールにて問い合わせてください。個別に回答させていただきます。
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