変化するニーズに合わせ価格を最適化し単価と稼働をアップ
最近、レベニューマネージメント と ダイナミックプライシングについて、よく耳にすると思います。じつは誤解がある用語です。まず、はじめに概要から説明していきます。
「ダイナミックプライシング」とは、ニーズに合わせて価格を調整することを指します。すなわち、販売戦略における手法の一つであり、価格戦略の重要な柱、施策と言ってよいと思います。「マーケティングとは宿の魅力を高め売りやすくすること」ですが、それに対してダイナミック・プライシングの役割は「その魅力を効率的に販売し収益を最大化」することです。
決して「安売りして稼働を上げるだけ」という意味ではありません。(単価は上げることもダイナミック・プライシングの目的の一つです。)
レベニューマネジメントとダイナミックプライシングは混同されやすい用語ですので、ここでざっくりと説明します。
レベニューマネジメント 収益を最大化するための総合的な販売戦略
ダイナミックプライシング 価格のコントロール
つまり、ダイナミックプライシングは、レベニューマネジメントの一要素ということになります。ただし、多くの場合で、レベニューマネジメントとほぼ同じ意味で利用されています。(ややこしいですね)
それでは次にレベニューマネジメントについて説明します。
近年の宿泊施設のマーケティングでは、レベニューマネジメントという用語を耳にするようになりました。しかしこのレベニューマネジメントを日本語にすると「資産管理」という意味になり、意味を知ると宿泊施設の予約販売とのつながりがピンとこないのではないでしょうか。
マーケティングや販売戦略での用語としては 「在庫に限りがあり、需要が時間によって変動するビジネス(航空業界、宿泊業界など)で収益を最大化させる戦略」としています。
目的:収益の最大化
手段:販売戦略、施策
もし価格を変動させるという意味に絞るならば「ダイナミックプライシング」を使うことをおすすめします。逆に「収益最大化のための総合的な販売戦略」という意味なら「レベニューマネジメント」を使うと明確になると思います。
ダイナミック・プライシングが「利益を大きくする」についてピンと来ないかたは多いと少なくないと思います。そこで次は「どうやって利益を生むのか」について説明していきます。
宿泊施設の予約販売において、価格決定のノウハウはキモです。高ければ売れない。安くしすぎれば利益率が下がってしまう。ちょうど良いバランスの価格を見つけることが求められます。
ニーズを分析し、料金を変動させて稼働を分散させ平準化→稼働数(率)のアップ
さらにニーズの高いところは単価アップ
これらを組み合わせ、宿泊施設の収益が改善するということなのです。
シンプルなダイナミックプライシングは、エリアのターゲットとなるホテルの価格変動を参考に追随するだけという受動的なものもあります。ビジネスホテルのような都市型の宿泊施設はかなり昔からやっていたスタイルですね。
データ分析によるダイナミック・プライシングでは、販売データを分析して自発的に価格変動させています。その分析こそが重要なノウハウとなります。ただ、リゾート型の宿泊施設は都市型ホテルなどより、考慮する変数は多く、より複雑になると考えていて、価格変動の幅やタイミング等、判断難しいものとなります。
ダイナミックプライシングというのを誤解される方が多いです。ダイナミック・プライシングは「売れないときに単純に値下げをすること」と理解される人もいますが、実際には全く違い、私どもが担当してきた施設では、ほぼ毎年平均単価を上げてきています。もちろんマーケティング戦略と組み合わせることも必要です。
ダイナミックプライシングは、その宿泊施設のポテンシャル(潜在能力、潜在的な価値)を引き出し、変換するものですから、最大限にポテンシャルを引き出してしまえば頭打ちになります。つまり、魅力を上げ売りやすくする「マーケティング」と「ダイナミックプライシング」やプラン戦略を最適化することで、収益を伸ばすことが可能になります。
1978年、アメリカで航空業界の規制緩和(航空自由化)が実施され、多くの航空会社が自由に価格設定を行えるようになって生まれました。
飛行機の座席(搭乗券)は、その搭乗日までに売れなければ売上がゼロという性質があります。(他の製品や商品は在庫としてその日以外にも売ることができる)。そのような航空業界の事情や条件の中で、航空会社がどのように販売すれば収益を最大化できるかという視点で生み出された考え方、戦略です。
もともと航空会社はリース会社から航空機を購入またはリースして、必要な人材を雇用し、どれだけの利益を回収できるか。という視点でモノを考えています。
海外のホテルの場合、所有者が建物を運営会社にリースする。そして運営会社はその運営によって利益を上げるという形が主流です。つまり、ホテル経営も航空業界に類似するビジネスモデルです。
2つの業界のいう「収益性」は、座席や客室という資産から、どれだけ有効に販売するかに掛かっています。このような事情から「レベニューマネジメント=価格を変動させて収益」という意味として使われるようになったと考えています。
日本の旅館などでは伝統的に、その所有者自体が経営(運営)を行っていることが主流です。しかし、海外では建物の所有者と、経営や運営が分かれていることが多いという歴史的背景の違いがあります。
役割 | 主な内容 | 代表例 |
---|---|---|
所有者(オーナー) | 不動産を保有・投資 | 不動産投資ファンド、個人投資家、企業など |
運営会社(オペレーター) | ホテルの実務運営 | マリオット、ヒルトン、アコー、ハイアットなど |
ブランド(フランチャイザー) | ブランド名と運営ノウハウ提供 | 上記運営会社がブランドも提供するケースが多い |
最近、プリンスホテルが、自社所有の資産を投資ファンドに売却して、運営に特化していくという記事を読みました。つまり海外の経営スタイルに合わせたということになります。
海外では、所有者と運営会社は分かれている事が多く、施設の所有者は経営または運営会社などにリースして「家賃」で収益を上げます。そして経営または運営会社は、その建物(施設)を運営して宿泊客に「短期に又貸し(宿泊)」するような形で利益を上げます。ちなみにこの配分の基準となるのが「GOP」と呼ばれるものです。
リゾート型の宿泊施設の特性に合わせた、
価格戦略とは
都市型ホテルと、リゾートホテルや旅館、ゲストハウスなどでは、旅の性質が異なります。MTXは、その性質の差を考えてリゾート型のダイナミック・プライシングを行っています。ここではリゾート型(リゾートホテルや旅館)に絞って説明していきます。
都市型ホテルの価値は、利便性や機能性(設備、客室の広さや駅や目的の場所からの近さなど)でほぼ決定します。
くわしくは「内的/外的要因分析」で説明していますしかしリゾート型の場合、「旅」の性質が異なり、利便性は都市型ホテルほど、宿の価値に影響を与えません。そしてユーザーの価値感は多様で、宿ごとのターゲットによって備える設備(機能)も変化します。これらの理由から合理的な比較で選択できず代替性が低くなるといえます。
都市型ホテルの場合、利便性が価格決定の大きな要因となりうるわけですが、賃貸マンションと決定的に違うのは、日毎に利便性が変化するということです。近くでイベントやインシデント(災害や空港閉鎖や新幹線の運休など)があれば急激な需要変動が起きます。これに対応するために、価格に影響を与えるイベントや競合他者の価格をチェックして自社の価格を調整する必要があります。
逆に言えば都市型ホテルの場合エリアの競合ホテルの価格変動に連動させてしまえば、ダイナミック・プライシングは機能してしまうと思います。つまり、価格は単純なロジックで動いているからこそ、ダイナミック・プライシングツールによる自動化が現実的ということです。そういう都市型ホテルような、急激な価格変動が起きないところでビッグデータを利用するAIを使ってもあまり意味はないと予測できます。
リゾート型の場合、ユーザーが宿を選ぶ際、ゲストの価値感の差が大きく作用します。その価値感も多様で、そのターゲットを見据えて多様な宿泊形態、スタイルが存在します。つまり、合理的な比較が難しいため、価格決定モデルが複雑です。
また、選択した理由が価値感によるものが大きいほど、代替性が低いので「コスパが変動したことで競合に乗り換える」という行動に結びつきにくいということなります。
上記の説明を読んでいくと、「リゾート型ではダイナミックプライシングは必要ないのでは」と感じる方も多いと思いますが、実際にはそうではありません。価値感もそうですが、休みの取り方にも変化が起きていて、休暇取得の自由度が高まったことでダイナミックプライシングの有効性は高まっています。
有給休暇などで需要が高い時期や日付を避けることが容易になり、さらに時間的自由度の高い高齢者やインバウンドなどの需要もあります。ニーズに合った露出と価格で平日の稼働率を上げることも容易に。さらに宿やエリアが持つ魅力の創出と組み合わせることで閑散期の需要を掘り起こすことも。
前に説明したとおり、都市型ホテルは機能で比較しやすく代替性が高いので(キャンセル料などがなければ)一瞬でコスパの高いホテルへと流れることになります。つまり、ダイナミックプライシングツールは、この動きを予想するものです。周辺のホテル(特に競合)の価格の相場の変動に応じて、価格を調整するものと考えて良いと思います。さらに近隣のイベントなど外的要因をビッグデータを利用して価格を決定するはずです。(試したことはないが、それ以外の手法はありえない)
つまり、そのような手法の適正価格の予測は、ビジネスホテル、シティホテルのようなものに効果はあるが、リゾートホテルや旅館ではあまり(本音では「ほぼ全く」)役に立たない代物だと考えています。詳しくは別のページで説明したいと思います。
ノウハウやツールが差をつける
ダイナミックプライシング
ダイナミックプライシングは、主に2つのツールが必要です。
料金体系ニーズに合わせて最適な価格を反映しやすいもの
分析ツール最適な価格を判断するためのもの
ニーズに合わせて調整しやすい料金体系というのは、つまり多段階の料金ランクを作ることです。
最安の日程で室料1万円、最高2万円の客室の場合、1000円刻みで上がっていく料金表をつくっていくようなイメージです。
2つ目は最適な価格を判断するための分析ツールです。もし最適な料金表があっても、宿泊日ごとに最適な価格を判断できなければ手も足も出ません。
最適な価格を推測するためのツールが必要です。その判断基準を得て、最適価格を決定するための分析ツールを作る必要があります。このツールと読み取り方こそノウハウということに。※MTXではダイナミック・プライシングの分析ツールを独自に開発しており、興味のある方にはお見せしています。ご相談ください。
ダイナミック・プライシングをやったから即、売上や収益が上がるわけではないと考えています
「ダイナミックプライシングをすれば儲かる」というのは誤解です。宿の特性を考慮し販売戦略を立てることとセットで効果がでます。
特にリゾート系の予約販売では、ダイナミック・プライシングをやったから売上や収益が上がるわけではないと考えています。ある程度の条件が揃った場合に単価や稼働の上昇が起こり得るものと考えています。
口コミというのは、魅力があり、その魅力がユーザーに一定程度理解された時、高まるもので、つまり満足度の指標です。
つまり満足度が高く価値を感じてもらっているのなら、より高く買ってくれる潜在的なユーザーが市場にいるので、今までより高い価格設定でも十分稼働(販売数)を得ることができます。つまりダイナミック・プライシングはそのニーズの高さを利用して単価アップをさせることができます。
また、稼働がどうしても下がる平日も価格を調整することで、潜在的な需要を掘り起こし、機会損失が減り、収益を改善することが可能です。また、平日の中での分散効果で、全体的な稼働率を上げることも期待されます。
あるコンサルティング会社がある旅館に対して「ダイナミックプライシングができる」と言ったそうです。その旅館のマーケティングの責任者(実はマーケティングは未経験)は、その言葉を信じて契約をしました。
それを聞いた私たちは、そのコンサルが、どのような料金設定をして価格コントロールしているのか密かに見ていました(意地悪ですね)。結果的にはダイナミック・プライシングをやると言ってるだけで、実際にはやり方が分かってないようでした。
そのコンサルティング会社にとって、ダイナミックプライシングというのはあくまでも「やってる感」を出すためであって、肝心のOTAでちゃんと露出して、最適なターゲットに向けて最適なプランやサービスを用意して最適な価格で売ることさえ全くできていなかったということがわかりました。
あるダイナミック・プライシングのサービスの会社の説明を聞いてみたことがあります。そして、その会社のWEBサイトを確認すると、事例紹介ページに、たまたま宿泊したことのあるホテルが紹介されていました。
地方のホテルの場合、何かしら強いイベントが突然決まらない限り、極端に近隣ホテルの価格が上がることはないので、24時間のチェックやAIや自動で近隣をチェックする機能は必要なく、おそらくダイナミックプライシングのツールはほとんど意味がないのかもしれません。
私なりに調べた上での推測なのですが、現在ある「ダイナミック・プライシングのツール」というのは実は都市型のホテルを想定されたものであり、旅館やリゾート型宿泊施設に適合したものはほとんどないと考えています。MTXは独自にリゾート型に特化した分析ツールを開発して日々改良をしながらダイナミックプライシングを運用しています。
今まで、私達が見た、ホテルや旅館で使われている料金表というのは、シンプルすぎるものか、場当たり的に変更を重ねて複雑怪奇になっているかのどちらかでした。 ダイナミックプライシングでは、状況に合わせて調整する必要がありますので、構造的に作ることが求められます。その理由を説明していきます。
リゾート系の場合、料理の種類ごとにプランが派生していきます。さらに、OTAで販売する際には、OTAごと、時期ごとにセール用に割引のプランが派生し、記念日プランなど付加価値のあるプランを作ってしまうと、さらに派生します。つまり、いくつもの料金表を作る必要があるということです。
実は旅館やホテルの内部はもちろん、多くのOTAの販売業務を請け負う業者、コンサルの多くは、柔軟な料金表を作っているとは思えません。少なくとも、そういうものを見たことがありません。しかし柔軟な料金表を開発することは価格戦略の最重要ツールと言えます。
もしこれらが構造的に作成され、係数などで管理されたものでないと、料金変更が非常に煩雑な作業になり、矛盾だらけの料金になったり、問題が発生した時や料金改定時に混乱を招いてしまいます。また料金のミスにも繋がります。「わけがわからない」「誰がどう作ってたのかわからない」という料金表に悩まれている販売担当者も多いと思います。
硬直的な料金表を使って、感覚でプラン料金などを決めていると、(リゾートはプランが多くなりがちなので)販売でいろんな施策を行うたびにプランごとの料金が整合性が無くなり、調整や訂正がしにくい料金表になってしまいます。そして販売担当者が工夫をすればするほど、整合性がなくなり、複雑怪奇なものになっていきます。
「売れない」という状況に対応する時にプランや料金の味付けを変更する必要が出てきます。
メンテナンス性の劣る料金表であれば、客室料金のバランス調整や料金ランクの追加やレンジやステップ(段階)の調整も厳しいものに。さらにセールプランを作ると大変な作業になってしまいます。思いつきで作った料金表を無理やり作り直すと、そういう複雑怪奇な料金表になるか、凄くシンプルなものに戻すしかなくなるのです。もしダイナミックプライシングを行うなら、まず料金表の整備から始めましょう。
ある旅館の支配人に質問されで気付いたのですが、あるコンサルティング会社のスタッフが「リストリクション」という手法を勧めてきたそうです。 簡単に言うと「満室になるような日は、室あたり3名以上でないと泊まれないようにする」というものでした。
MTXとしては、このような運用を基本的におすすめしません。この手法は「取らぬ狸の皮算用」となりかねないからです。 せっかく満室になるのだから室単価を上げるために「同伴係数を上げたい」というのはわかりますが、この手法には負の効果があります。これが分かっていればいいのですが、実は、コンサルはこのリストリクションを勧めたのに、それを宿側(支配人)に説明していませんでした。
リストリクションというのは、直訳すると「制限」。予約販売時の制限を意味していて、要するに「室あたり最小予約人数」のことのようです。
例えば、休前日は必ず満室になると想定された場合に「1室3名以上でないと予約不可」とするようです。3名以上で販売するより、2名では「室単価」が低くなるので、収益性を上げるためでしょう。(もし販売が思わしくない場合は、直前で販売を解除)実はこれって、ダイナミック・プライシングと矛盾してる考え方だと思うし、いろんなデメリットがあると思います。
もし、このような制限を行う場合でも、条件次第では機能するとは思います。しかし、ある旅館の話では、「休前日は一律リストリクションを行ったほうがいい」と説明を受けたそうです。もしこのリストリクションについてアドバイスをしてほしいという方は、問い合わせいただければと思います。
しかし、このような「予約人数の制限」は実はデメリットがあって全体の単価を押し下げる要因になりえます。そもそも「需要が高いなら」2名の客単価を上げれば解決すればいいはずです。(答えを言ってしまった、、笑)つまり、このような需要の高さを変換する仕組みこそがダイナミック・プライシングなので「基本的には」室あたりの人数制限をするのはおすすめしません。(2025年時点のMTXの答えです。)
実はこの施策には、単価を押し下げる理由はいくつかあり、ちょっと意地悪ですがここでは説明しません。どうしても知りたいという方は、メールにて問い合わせてください。個別に回答させていただきます。
リゾート・マーケティング:[マトリクス]
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